日本有機地球化学会

会長の挨拶

一般社団法人 日本有機地球化学会は2019年11月から組織も新たに発足いたしました。その歴史は1972年に「有機地球化学談話会」として誕生して以来、1985年「有機地球化学研究会」、2002年「日本有機地球化学会」を経て、まもなく半世紀を迎えます。その間、37回の有機地球化学シンポジウムを開催し、学会誌 Researches in Organic Geochemistry も34巻を発行しています。これまでの任意団体としての学会から一般社団法人になることにより、社会的な信頼と責任が増すことになります。先達の功績を引き継ぎ、これからも有機地球化学に関する学理及びその応用についての研究発表、情報交換並びに国内外の関連学会との連携協力を行うことにより、有機地球化学の進歩発展を図り、もってわが国における学術の発展に寄与して参ります。

有機地球化学が探求する研究分野は非常に幅広く、地球科学のみならず宇宙惑星科学、資源科学、生物科学、海洋科学、大気科学、環境科学まで多岐にわたります。それは、有機物質が自然界に時空を超えて遍く存在し、我々の成り立ちと活動を支えているからです。本会が誕生した当時、多くの会員が石炭・石油などを対象として研究を行っていましたが、隕石や大気・海水中の有機化合物、温泉や南極の極限環境の微生物バイオマーカーなどに関する研究も早くから取り組まれています。産業活動による環境汚染や地球環境変動の解明や、微生物や藻類、動植物を用いた生理・生態機構の解明も主要な研究テーマです。近年ではメタンハイドレートやシェールガス・オイルなどの新しいタイプの資源に関わるとともに、深海掘削計画や小惑星サンプルリターン計画など国際的な大きなプロジェクトにも参画しています。

研究対象があまりに広すぎるためにまとまりに欠けると思われるかもしれません。しかし、自然界には数百万もの有機化合物が存在します。その一つ一つが起源と進化(化学反応)を持っており、それらを研究することが我々自身の理解と発展をもたらします。例えば、酢酸(CH3COOH)は宇宙の星間分子として発見され、隕石中にも存在します。現在の大気・海洋でも主要な有機酸として見出される他に、油田やガス田の地層水にも豊富です。生体中では代謝過程・エネルギー生成の中間化合物として重要です。このように有機化合物を通して、宇宙-惑星-地球-環境-資源-生命を結ぶことができ、非生物的な化学進化から生物的な生命の営みや進化、そして地球環境の解明にもつながっていきます。

自然界に存在する有機物質を研究するためには多種多様な解析手法を用います。天然では往々にして、個々の有機化合物の存在量は少なく、非常に複雑な混合物として存在します。そのため、従来の手法では対応できず、新たに分析技術を開発・発展させることも重要です。時として、生物試料の分析法が宇宙物質の分析にも役立ちます。有機地球化学者が開発した分子レベル同位体比測定法は薬物ドーピングや食の安全にも利用されています。本会では学会誌やシンポジウムを通して、このような有機物質の分析・解析法の技術開発や情報交換にも努めています。

本学会は、一般社団法人日本有機地球化学会として、新たな一歩を踏み出しましたが、これからも研究者、教育者、企業人、学生をはじめとして自然界の有機物質に興味を持つあらゆる人々が交流し、議論・情報交換を通じて、社会の発展に貢献する学会であり続けたいと願っています。今後とも皆様のご理解とご鞭撻をお願いいたします。

一般社団法人・日本有機地球化学会 会長(代表理事)
九州大学大学院理学研究院・教授 奈良岡 浩
2019年11月

このページの先頭へ